九州磯釣連盟 海洋磯釣倶楽部(サーフメイズJAPAN)2025.3月で創立50を迎えました
2009.5.1.「機関誌 海洋だより」記載文より、ホームページに転載公開
2021.12.リニュアル公開 musick 白鳥の湖


2009.1.24.撮影  釣り人が遭難した釣り場、北九州市若松区脇の浦西部埋立地


 はじめに


社会人となり企業に勤めて40年を超えようとしている私は、釣り歴も同じように積み重ねてきた。
その間、様々な人々と交遊し、友情を重ね、家族的な、企業的な、あるいは釣り人集団の組織や団体、それに関する釣り具業界から行政に至るまで、たくさんな人々と接し、遊びの釣りを豊かにし、人間形成に役立てて来た。

その中で個人的な釣りレベルの仲間達、あるいは家族を含めた遊びの交遊は深く根づき、家族的な絆を、釣りでしっかり結んでいた。
「たかが釣り、されど釣り」の心髄は、釣りを趣味にした人間達の生きる道筋を求め、没頭して燃焼させる、自然界の優しい魅力に、はまり込んでゆく釣り人の人生でもあった。
私はそのような生き方をした釣り人を多く見てきた。そして大地に、自然に、帰ってゆく友を多く見とどけた.


遭難、平成21年1月23日金曜日   中潮

平成21年を迎え、正月より続く寒波は肌身にしみる寒さが続いている。
海上は波浪注意報で曇、日中は、わずかな陽ざしがさしのべるが、強い西風が陽ざしを一気に吹き飛ばす日だった。
その中で午後からの釣り。家近くの「若松ひびき灘、釣具のポイント店」で、新しく買った高価なスピニングリールに新しい道糸を巻いてもらった。これをすぐにでも使ってみたい、テストして感触を確かめたい、釣り人の性である。
通いなれた若松響灘西部埋立地の釣り場は、国道から入ってすぐのドン詰まりの岸壁と、自分のマイカーが見える、すぐそばの釣り場はだれしも安全を考える。しかも風も波も外洋とは比較にならないほど穏やかである。ましては通いなれた自分の釣りポイントなのである。

釣り人は40才で独身、釣り場から20分のところが住い。そして明日も休日と続き、今日は夕まずめからチョットだけ半夜釣りを考え、キャップライトを持参している。
バッカンに沖アミと集魚材を混ぜ込み、サシエサの沖アミと夜釣り用の小ケブは木箱に入れてある。
午後からの釣りは15時を過ぎていただろう。まだたくさんのマキエが残っており、釣り人は防寒スーツにブーツ。そして、ヘッドランプを付け、釣り竿にはキッチリ、ハリス、針がリールのワームに掛けられ、万事OKの準備。多分、休憩かトイレの状況であったと推測される。

そして、家では息子が深夜になっても帰ってこない。
親が心配するも、いつもの釣り、 「行ってくるョ」。
母親が「天気が悪いからヤメときなさい!!」と言っても、いつもの釣り。
その日はとうとう帰って来なかった。




遭難、次の日、1月24日土曜日  中潮

天気は曇のちミゾレと、あいかわらず風が強い。
両親とも不安になり昼前、息子を探しに行く。
多分この辺だろうと、いうところに行けば息子の車がある。
キッチリ着替えた様子が伺える。履物が車内に揃えて置いてある。そして50mほど先の岸壁には息子の釣り具がきれいに置き去りにしてある、しかし、息子は居ない。

ここから息子の行方不明、遭難、あるいは事件ともみられる事態が始まった。
親がその辺を捜すが居ない。警察に110番する。
若松署、交番署員が来て捜す等、事件等を含めた捜査を始めるが夜になり打ち切り。
しかし、諦めきれない親や親戚者が、深夜まで周辺を探すが見つからない。
仕方なく、帰宅。
息子の安否を気遣い、もしかして帰ってくるかも知れない、それだけを期待して朝を迎える。




遭難3日目、1月25日 日曜日   中潮

早朝、強風とミゾレ混じりの雨が強く降る中、若松消防署レスキュー隊が、釣り人が落ちたと思われる海域を潜水して捜す。
海水温度は急激に下がり、かなり冷たい様子。
レスキュー隊員もこの中で1時間も潜っていられない冷たさ。それでも4時間ほどの捜査をするが発見できない。
この日は息子の仲間や親戚、知人等が海岸を広域に捜す。親は震える身体で深夜まで捜す。

25日の新聞に釣り人遭難記事が記載された。
私への連絡があったのは、その新聞記事を読んだ釣り仲間の電話で始めて事故を知った。25日(日)深夜である。




遭難4日目、1月26日 月曜日   大潮

出社し、釣り友達の遭難で捜索の協力をしたいので早退届を出し、昼前、事故現場に入る。
そこには福岡県警察、若松署等のレスキュー隊他、署員が25名あまり居た。
午前中、区域をしぼり、5人のダイバーが90分潜り、釣り人本人の磯ブーツとキャップライトを発見し、親がその現物を確認し、この釣り人本人のものである証拠品とされた。
ミゾレ混じりの雪が舞降るこの日は、さらに冷たい北西風が、捜査する隊員、私達の体温をさらに奪い去ってゆく。

午後2時、海上からは海上保安庁の警備艇2隻が、その様子を見守りながら捜査活動をカバーしてくれた。そして再びレスキュー隊員5人が30mほどのロープを張り、横一列になり海域を潜り、陸上からは位置関係を整えながら隊員に指示をだす等、現場周辺の海岸からも捜査されていた。
私も広い埋立地岸壁を三往復して海岸、海をみつめた。

午後3時30分、レスキュー隊員が海から上がり、今日はこれまでと告げられた。
親はレスキュー隊員等にお礼を言っているが、明日はもっと広く捜査を拡げ、捜してくれることを言われたようだ。それにしてもミゾレ混じりの寒い一日はアッという間に終わった。
その日、会社へ明日の有給休暇届を出した。




遭難5日目、1月27日 火曜日 朝8時  大潮

現場に着く。今日は天気も良さそうだし風も少々と、釣りをするには絶好のコンディション。その中で現場に二人ほどの釣り人が竿を出していた。彼達は遭難事故を知らないようだ。
10時前、最初に事故捜査、活動をした若松消防署の消防車が来た。てっきり今から活動してくれるかと想って聞いて見ると、今日はちがう仕事に行く途中で、気になったので立ち寄り、現場を数分見ただけとのこと。
その上で、消防署の活動は人命救助とか、まだ助かる見込みのある場合の初期活動のみ行動するそうで、今度の役割は終えたと言われた。

昼までの2時間、現場そばの脇ノ浦漁港、岸壁を見て廻ったとき、前日、脇ノ浦漁協の関係者が現場に居たことを思い出し、自分勝手に脇ノ浦漁協の事務所に行き、今度の事故、遭難の件を話した。女性事務員3人と理事長も知っているそうなので、漁協組合員の皆さんに
「この事故を知ってもらい、漁の行き帰りでも海上を注意して見てくれたら」
のお願いをした。その気持ちを温かく受けてもらった。

12時、前日の福岡県警察若松署レスキュー隊員他、たくさんの警察署員が来た。クレーン車にはゴムボートがあり、これで海上をくまなく捜してくれるとの事。もちろん親、友人も駆けつけ、これらの様子を伺っている。
パトカー2台、警察車輌も5台、若松署生活安全課課長も来て、40名を越える大捜査となった。
海上からは海上保安庁の警備艇が見守っている。

前日、捜していない海域を目印やロープで間隔を測りながら、レスキュー隊員6名が海に潜ってゆき、陸と海の連係プレーで探す。
今日は温かい陽ざしもあり、捜査もかなり熱が入っているようで、ダイバーも90分交代で広く海域を捜してくれた。
ゴムボートも海上からレスキュー隊員を支え、九州磯釣連盟が毎年開催する海防講習会では見られないすごさを改めて知った。

しかし、40数名の警察署員が全力で捜査活動したにも関わらず16時30分捜査を終えた。
親も一生懸命、署員に礼を言い、私もおよばずながら熱いコーヒーを幾度となく差し入れ、250gのコーヒー瓶がカラになった。
そして午後17時、海上捜査が今日のこの日で打ち切りとされた。






親は仕方がないとガックリ、肩の力が抜けたようだが、たくさんの、大勢の人々が一生懸命、寒い中、捜査活動してくれたことに感謝し、海の中に居るだろう息子の姿を想いうかべ、震える想いでじっと耐える親。
そのそばで、してやれなかったことの後悔、釣りという危険きわまりない趣味を持つことの後悔を、何度も心の中でつぶやき、これからのことを深く考えてしまう私。

帰り道、脇ノ浦漁協事務所に立寄り
「遭難捜査が打ち切りとなったことの報告。その上で今後、海上での漁協組合関係者、皆さんに遺体発見協力要請等」
親と一緒になってお願いした。

昨日、今日と親の家に行き、会話にならない話し。後悔ばかりの親。言葉がでない。できるだけのことをした、それだけが救い。



遭難その後、2月5日 木曜日 夜


藤崎好夫さんに、その後の、ことを電話で聞いた。
私が住む行橋市から若松まで九州自動車道と北九州都市高速道を利用すれば45分少々で着く彼の家に電話をした。
いつも電話を取ってくれる優しい姉の美奈ちゃんは、悲しみをこらえた重い言葉で親と代わってくれた。

昨日、4日(水)、知り合いの漁船で事故現場周辺を数時間かけて捜したと言った。
若松警察署も、事件と事故の両方で綿密に詳しく捜査しているようで、あれから数度、警察ゴムボートが事故現場周辺を捜したそうだ。又、彼の身辺調査として、会社から友人、知人、金融関係等、あらゆるデーターを拾って細かく聞きまわっていることを聞いた。
その上で、事故で迷惑をかけたたくさんの方々にお礼を言いたい。そのような会話を30分ほどした。
家族も病気がちで、大変苦労されている状況がひしひしと電話の向こうから伝わってきた。





                   
第二部へ続く










釣り人の海難・遭難救助、消防署.警察署.海上保安庁.レスキュー隊の活動

第一部 釣り人の遭難現場を考察する